ケアンズ釣行２００３釣行記

　ひょんな事からケアンズに行くパックツアーに参加することになった。観光にほとんど興味のない僕としては正直それほど嬉しいことではなかった。ところが、ケアンズの情報を得ようと何気なくインターネットで検索したところ、釣りのオプションツアーがあることが分かった。ガイド付きでボートからのルアーやフライの釣りができるという。対象魚はバラマンディ！！　これで俄然興味が湧いてきた。バラマンディと言えばあのアカメの近縁魚である。一度は釣ってみたかった魚だ。早速、現地の旅行代理店とメールでやりとりをして詳しい情報を集めた。
　それによれば参加者の大多数は２，３名でルアーというパターンだということだったが、フライタックルの手配と、割高になるが１名でのツアーの予約も可能だという。釣果についてはやはり状況次第。餌釣りならバラマンディが釣れる可能性はかなり高いが、ルアーの場合、バラマンディが釣れるかは、ある程度運次第とのことだった。
　僕の場合、普段はルースニングかドライの釣りばかりで、シンキングラインを使った釣りやソルトウォーターの釣りの経験は無いに等しい。ルアーでも厳しいのにこんな実状でバラマンディに挑戦するのは無謀かといったんは躊躇したが、この機会を逃したらおそらく生涯挑戦する機会は無いだろうと考え、二日間のガイドを予約することにした。


　僕が海外釣行に出発するときは必ず何かある。案の定、今回も搭乗機の空調トラブルで出発が１時間ほど遅れた。到着してすぐ釣りに行く予定だったので少々気を揉んだが、ガイドとの待ち合わせ時刻の９時には余裕を持って待ち合わせ場所のホテルに着くことができた。本来７時の待ち合わせ時刻を予め遅くしておいて正解だった。
　９時少し前に、いかにもオーストラリア人ガイドといった風貌の人物がホテルの入り口から入ってきた。僕と目が合うなり、左手でロッドを持って右手でリールを巻く仕草。うなずくと、僕の名前を呼びながら握手を求めてきた。彼の名はテリー。実は後ほど知ったのだが、ケアンズで最も優秀なガイドの一人だった。挨拶もそこそこに彼の車の助手席に座りさっそく釣り場に向けて出発した。車の後にはボートが牽引されていた。
　釣り場は少々遠く１時間ほどのドライブになるという。車中では僕の普段の釣りのスタイルや、ケアンズ周辺の釣りの状況、お互いの仕事のことなど様々な会話が交わされた。テリーは日本人をガイドすることも多いので、僕の怪しげな英語力でもお互いになんとか分かり合うことができ、かなり安心した。実はガイドとのコミュニケーションが一番の不安材料だったのである。


　１時間ほどして着いた釣り場は予想以上に風が強かったため、もう２０分ほど走って別の川まで移動した。テリーはフライに適した釣り場を選んでくれていたのだ。釣り場に着くとボートを手際よく川におろし、早速ボートに乗り移った。今回の釣行では日本から何一つ釣り道具は持ち込まなかった。帽子、偏光グラス、そしてトレードマークのタオルだけが僕の持ち物だった。あとはテリーがすべて用意してくれていた。

　手際よく準備をしてボートを川に降ろす

　ボートは川幅１５ｍほどの川を上流に向けて走り出した。５分ほど走ったところで一旦木陰にボートを止めた。釣りの前にティータイムかと一瞬疑ってしまったが、（一部のガイドは休憩時間が長く、実際に釣りをする時間が短い場合があるとの情報もあったので）テリーはテキパキとタックルの準備を始めた。タックルはお世辞にも新しいものとは言えないが、十分に手入れが行き届いていた。
　フローティング、シンキング、そしてライトなシンキングの３種類のタックルをセットしてくれた。それぞれの番手やシンクレートはよく分からなかったが、シンキングが１０番、フローティングとライトタックルが８番くらいの感じだった。シンクレートはタイプ３，４位だろうか。ライトタックルには使ったことのない透明なラインが巻かれていた。リーダーシステムも僕にはとても新鮮な物だった。ラインの先に７０センチほど太いリーダーを結び（この太さになると経験がないので数値化できない）、その先に少し細いリーダーを同じくらいの長さ結び足し、さらにかなり太いリーダーを２０センチほど結んでそこにメタルアイヘッドのストリーマータイプのフライやポッパーを取り付けた。フライのサイズも僕にはとにかく大きいとしか表現できないサイズだった。

　タックルの準備ができると動力をエレキに変えてボートを静かに上流の川の屈曲部へと進めた。そこでは緩流帯と流芯の間で何匹かの魚がライズしていた。テリーがターポンだと教えてくれた。調査不足だったのだが、ターポンがオーストラリアにいることを僕は知らなかった。フロリダにいる巨大魚のターポンとは別種のパシフィックターポンと呼ばれる種類でそれほど大型にはならないが、口の堅さと引きの強さは共通しているらしい。
　ライズから１５ヤードくらい離れたところにアンカーを打ってボートを停め釣り始めた。テリーから教えられたとおり、「トゥイッチ、トゥイッチ、ポーズ」のリズムでリトリーブしているといきなりラインが引き出された。左手でアワセた後、ロッドを起こしてもう一度しっかりアワセを加えた。しかし、次の瞬間、魚がジャンプした瞬間にフックが外れてしまった。テリーからもっと強くフッキングさせるようにアドバイスがあった。なるほど、ターポンストライクを実践（？）しなきゃいけないのだと思った。
　数投後にまたアタリがあった。今度は思い切り強く追いアワセを加えた。これで大丈夫だと思ったのだが、この魚もランディング寸前にバレてしまった。テリーに言わせればまだフッキングが弱いらしい。
　そして次のアタリ。今度はコンチクショー（言葉が悪くて失礼）と気合いを入れて２度ほど追いアワセをした。魚はジャンプを繰り返し、さらには高速でラインを引き出して抵抗したが、今回はフックが外れることはなかった。４０センチほどのサイズだったがパワーとスピードはさすがに強烈だった。最初の魚が釣れたことで緊張感が少しほぐれた。同時にターポンを釣ることができた喜びが湧いてきた。テリーとがっちりと握手を交わした。

ケアンズの初釣果はなんとターポン

　釣れたターポンの口の中を触ってみると、そこは周囲全部まるで石のように堅かった。強いアワセが必要なことが十分実感できた。これでコツが掴めたのでこの後１時間ほどの間にもう２匹ターポンを釣り上げることができた。
　この釣り場は河口から数キロの地点なので干満の影響を受ける。潮が変わったせいかライズが見られなくなってきたので昼食を摂ることにした。手作りのサンドイッチとコーラだけの簡単な食事だったがとても気分良く食事をすることができた。


　昼食後は屈曲部の最奥の深みを狙うことにした。水通しは良くなさそうだったが、水深があり、川岸の枝が被さるように茂り、その一部が水中に沈んでいるので魚の隠れ家としては良さそうなポイントである。昼食前にターポンを釣っていた時から狙ってみたいと思っていたポイントだった。僕がバラマンディならあそこに潜んでいるだろうと思うような雰囲気を感じていた。
　釣りやすいポイントから攻め始めて徐々に障害物の周辺に狙うことにした。比較的オープンなポイントにキャストしたところすぐにアタリがあり小型のターポンが釣れてきた。幸先は良さそうな感じだった。
　障害物に近く、水深が一番ありそうなポイントにキャストしてリトリーブを繰り返したがアタリはなかった。バラマンディは目の前を通った物にしか反応しないので、ルアーの場合、同じポイントを５回は攻めるという話を聞いていたので、諦めずに何回も同じポイントへのキャストを繰り返した。

　突然、ラインをたぐる左手に抵抗を感じた。反応して動きそうになる右手を意識して押さえ、今までと同じリズムで左手でラインをたぐった。次の瞬間ラインがグンッと引き戻された。
　左手でアワセを加えるとラインはさらに強く引き出された。ロッドを立て、テンションをかけたのとほぼ同時に水面上に魚体が躍り出た。ターポンとは明らかに異なるシルエットだった。
「バラマンディだ」
　テリー叫んだ。
「良いサイズだぞ」
「無理するな」
「障害物から離せ」
　矢継ぎ早にテリーから指示が飛ぶ。バラマンディと聞いてから心臓が早打ちを始めた僕だったが、テリーも興奮しているようだった。この魚をバラしたら間違いなく一生後悔する。そんな思いが頭をよぎった。努めて冷静に慎重に魚の動きを確認しながら徐々にラインをリールに巻き込んでいった。ボートの近くまで魚体が寄ってきた時、水中で魚の目が赤く光った。ドキッとするほどの美しさだった。
　近くまで寄ってきた後も魚はトルクフルに抵抗したが、テリーが巧みにハンドランディングしてくれた。十分に濡らしたタオルの上に静かに魚を置いた。風格のある堂々とした魚体を前にすると、この魚を自分が釣った事実が妙に薄らいで思えるほどだった。魚が弱らないうちに手早く何枚か写真を撮った。テリーが魚を持たせてくれた。その重さたと鱗の堅さ、口の感触にバラマンディを釣った実感がひしひしと湧いてきた。水の中に戻すと、魚は再び元の深みへと帰っていった。
「この川であのサイズをフライで釣ればたいしたもんだ」
　テリー誉めてくれた。お世辞かもしれないがとても嬉しかった。テリーも嬉しそうだった。

念願のバラマンディをゲット！


思わず口元が緩む


画像左奥がヒットしたポイント


今回、お世話になったガイドのテリーも笑顔


この堂々とした風貌には威厳すら感じる

　翌日はＧＴを狙うことにしたが、濁りと強風でタフな釣りを強いられた。昼過ぎになってやっと良型のアタリがあったがロッドを立てる間もなく、障害物に潜られてラインブレイクしてしまった。今更ながら対象魚のパワーを思い知り、前日のバラマンディが無事にランディングできた幸運を噛みしめることができた。
　二日目の帰路、テリーはこの日良い釣りができなかったことを自分のガイドが下手だったからだと詫びてくれた。僕はこう答えた。
「悪かったのはコンディションと僕の腕さ。もし、君のガイドが下手だったら昨日のバラマンディは釣れていなかったはずだろ。君のガイドはいつもパーフェクトだったよ。もう少し釣りの腕を上げてくるから、次に来た時も僕のガイドをよろしく頼むよ。必ずまた来るから」
　テリーはにっこりうなずいて右手を差し出してくれた。