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２００３年釣行記（１）

第１日目

　車は、ムルパラの市街地を抜け、雨の中を森林組合の事務所に向かって走っていた。今日は２００３年３月３日。ＮＺ釣行の初日である。さきほどから雨足ばかりが気になっていた。今年は良い釣りができるだろうか。少々憂鬱な気分だった。それには理由があった。

　ＮＺ釣行は今年で３回目。４人のメンバーも昨年と同じ顔ぶれなので、準備はきわめて気軽なものだった。まるで近郊の温泉に遊びに行くような感覚だった。これまでは出発日になって、悪天候や機体の故障などのアクシデントに冷や冷やさせられてきたが、今回は大きなアクシデントもなく成田空港を離陸することができた。ここまでは極めて順調だった。
　ところが、機内食を食べ終えた途端、急に気分が悪くなってきた。目の前が真っ暗になり、吐き気を催し、洗面所に行くことさえやっとの状態だった。幸い、症状は数時間で収まり、ひと眠りしてからは特に異状を感じることはなかったが、なんとも幸先の悪い、不安を抱えてのスタートとなってしまったのだ。

　森林組合で林道の通行許可を貰い、まずはＦ川に向かった。Ｆ川はＲ川の一番大きな支流だ。この雨がしばらく続くようだと、水が濁って数日間は釣りにならない可能性があった。そこで、濁りが出る前に竿を出しておこうという魂胆である。
　しかし、入渓点となる橋のたもとには既に地元の車が停まっていた。この辺りで平日に先行者があるというのは、いままであまり経験したことがなかった。アンラッキーである。ただ、この入渓点からは川沿いに登山道が続いており、しばらく上流に歩いてから川に降りる釣り人が多い。そこで、我々は橋の下から釣り上がってみることにした。
　橋のすぐ上のプールをニンフで探るとすぐに反応があり、３０センチちょっとのブラウントラウトが釣れた。こちらではスモールサイズだが、それでも最初の一匹は嬉しかった。しばらくの間は小型の魚がコンスタントに釣れてきた。ところが、３００ｍほど釣り上がると、魚の反応が極端に少なくなってしまった。先行者はこの辺りから釣り始めたようだった。雨も相変わらず降り続いていた。川を変えることにした。早くまともなサイズの魚が釣りたかった。

　次に向かったのはＲ川本流の上流部。川のすぐ近くまで車で入れるボート降ろし場に車を停め、その近くを釣ることにした。時刻はすでに昼を過ぎていた。宿泊先のマリーの家で用意してくれたランチボックスを開いて食事にした。食事を摂ると少し気分が落ち着いた。
　少し上流に釣り上がったところで、やっと良型がニンフにヒットした。今年の初物だ。慎重にやりとりしてランディングした。５０センチ程のレインボートラウトだった。これで多少安心した。
　Ｒ川本流を後にして、上流部にあるキャナル（運河）に向かった。その頃には雨が少し小止みになってきた。空が明るくなると気分も晴れてきた。
　キャナルに着くと、すぐに最上流にある水量調整池に向かった。昨年、ここでルースニングをして、良い思いをしていたのだ。早速、昨年と同じように釣り始めた。
　ところが昨年ほどは釣れなかった。昨年より調整池の水量が少なく、そのため魚があまりストックされていないようだった。それでも４０センチほどのレインボートラウトを２匹キャッチすることができた。この池の魚は引きがとても強く、このくらいのサイズでも魚とのファイトを十分に堪能することができた。
　釣りを終える頃には薄日が射してきた。イブニングに備えて早めにマリーの家に戻ることにした。

　マリーの家に戻ってしばらくすると、マリーのガイドで釣りをしていたＳ氏とＹ氏も帰ってきた。Ｆ川の下流部を釣り、ドライで楽しい釣りができたようである。雨で岸辺の草木から昆虫が川に落ち、これがライズを多くしていたようだった。

　夕食を少し急いで食べ、釣り支度を再度整えてイブニングの釣りに出発した。時刻は１９時。夏時間の現地では２１時近くまで釣りをすることができる。西日の眩しい中、３０分ほど車を走らせて、再びキャナルに向かった。
イブニングの釣りは、このキャナルか、キャナルから５分ほど走ったところにある発電用の貯水池（レイク）の実績が高い。僕とＦ氏がキャナルに入り、Ｙ氏はレイクに向かった。
　着いた時点では、まだライズが少なかったのでニンフをドロッパーにして釣り始めた。すぐに反応があり、３５センチ前後の、ここではレギュラーサイズのレインボートラウトやブラウントラウトが立て続けに何匹も釣れた。イブニングの出だしは好調だった。
　辺りが暗くなり始め、ライズが増えてきたので、ドロッパーを外して昨年実績のあった茶色のカディスパターンをリーダーの先に結んだ。ところが、フライパターンがマッチしていないのか、反応は芳しくなかった。仕方ないので、再びドロッパーを付けた。すると、またアタリが戻ってきた。
　ドライフライがやっと視認できる程度にまで照度が落ちた頃、水面のフライが突然消し込まれた。ロッドにはこれまでにない強さの魚の抵抗が伝わってきた。ティペットは３Ｘを使っていたので、少々強引にやりとりしても強度に不安はなかった。５分ほどのファイトの後、やっとのことでネットに納めた。ライトで照らして魚の姿を確認すると、５０センチオーバーの丸々と太ったブラウントラウトだった。この１匹で初日の釣りを終えた。頭上には天の川が綺麗に横たわっていた。
　終わってみれば、良いスタートを切ることができたニュージーランド釣行の初日だった。機中での体調不良のことなど、もうすっかり気にならなくなっていた。