現地の道は山間部でも標識がしっかり出ているので分かりやすい。さらに川に降りられる地点にもウォーターサプライやフィッシャーマンズアクセスなどの目印が出ている。そのためこの日も迷うことなく目的の入渓点にたどり着くことができた。
かなり山の中に入った地点だが、川は平坦な土地をゆるやかに蛇行しながら流れていた。水はクリアで数日前の雨の影響はほとんど感じられなかった。屈曲部のプールにニンフを流し、流れの緩い場所では魚影を探しながら遡行した。良い雰囲気の流れだが、魚の反応は乏しかった。何匹か見つけた魚もフッキングさせることはできなかった。
１時間ほど遡行したところに流れが中州で二分されている箇所があった。ゆっくりと近づくと右側の小さく緩い流れの中に浮いている大きな魚影が見えた。急いでダブルニンフからドライドロッパーにシステムを変えた。浅い流れなので魚に気付かれぬよう細心の注意を払い、魚の少し上に静かにフライを落とした。ニンフが魚のやや右側に落ちてしまった。数秒後、魚は右に移動して口を開けた。同じ瞬間ドライフライがやや斜めに水中に引き込まれた。反射的に右手が動いた。水面の下で魚が反転した。これまた会心の釣りとなった。
Ｆ川上流部。右の分流で魚を見つけた
流れの緩い場所で慎重にランディングする
狙い通りの釣りができて大満足さらに１時間ほど釣り上がったが釣果は先ほどの１匹だけだった。とあるカーブを曲がったところで上流に釣り人が見えた。横を見ると川岸に車が停まっている。ここから入渓したらしかった。我々はここで上がり川を変えることにした。
昼近かったので少し下った地点にあるキャンプサイトで昼食を摂ることにした。この周辺も良い釣り場だが、魚影は確認できなかった。
昼食を摂ろうとしていたら、馬が寄ってきた午後はＲ川本流の下流域まで大きく移動した。前回の釣行でニンフに反応が良かったポイントを目指した。ところが現地に着いてとても驚いた。川の様子が全く変わっているのだ。一番良いポイントだった瀬は、川岸が大きく削り取られ、瀬のあった場所には中州ができていた。このポイントに見切りを付け、最後の望みをＦ川に託すことにした。
Ｒ川下流部。洪水の影響で好ポイントが消滅していたＦ川では二日目の夕方に良型のレインボーを釣った分流のポイントを狙うことにした。２日目に川から上がった地点で入渓し、川を２００ｍほど下ってポイントを目指した。川の水位は平水に近いレベルにまで下がっていた。
ポイントについてすぐにバブルラインの中でライズを見つけた。M氏がドライフライで狙ったが、フライを口にする寸前で反転してしまった。そこで同じポイントをニンフで狙うことにした。すぐに反応がありM氏のロッドが弧を描いた。当初は大型トラウトとのファイトに戸惑っていたM氏もファイトのコツを掴んできたようで、魚を確実にコントロールしていた。Ｍ氏はこのポイントで良型のレインボートラウトとブラウントラウトを立て続けにキャッチした。
M氏が釣った好コンディションのレインボートラウト
立て続けに良型を二匹キャッチして嬉しそうな表情のＭ氏イブニングはマリーと一緒に最後に釣ったポイントの様子を見に行くことにした。Ｍ氏はＦ川下流のポイントに一人で入ることになった。
Ｍ氏をＦ川下流で降ろし、マリーと上流のポイントに向かった。川に着くとフラットな流れでライズが始まっていた。流速のある流れでのライズだが、ライズしている位置は安定していた。ライズのやや上流に立ち、リーチキャストでドラグを回避してフライをライズ地点に流し込んだ。フィーディングラインをフライが流れれば魚はイージーに反応してくれた。ライズを見つけて立ち位置を決めフライを流し込む。すると魚が素直に反応する。ファイトを楽しみながら魚を取り込んでリリースする。こうした一連の行為を半ば自動的に繰り返し、至福の時を堪能した。辺りがすっかり暗くなりライズが無くなるまでに６匹の魚をキャッチすることができた。
これで終われば格好が良かったのだが、この後とんでもない失態を演じてしまった。川から上がろうと腰ほどの水深の場所を歩いていたとき、川底の石につまずいてひと泳ぎしてしまったのだ。幸い怪我もなく所持していたデジカメも無事だったが、濡れたままの服をパッキングする羽目になってしまった。
釣りを終え、Ｍ氏を迎えに行く車中でマリーとこんな話をした。
「マリー、僕はこの季節がとても気に入ったよ。釣りだけを考えれば確かに夏の方が良いかもしれない。でも、この季節の釣りもとても楽しいよ。ニンフの釣りも嫌いじゃないし、イブニングはとってもエキサイティングだし」
「あと、花と緑がとても綺麗だった。そんな景色を見ているだけでとても幸せな気分になれるんだ」
「それともう一つ、大きな理由があるんだ」
マリーが運転しながらこちらに視線を向けた。
「マリーもリネットもこの季節の方がリラックスしているように思うんだ。夏はとても忙しくてみんな疲れているような気がする。リラックスしているマリー達と一緒にいると、僕もとてものんびりした気分になれるんだ」
「確かにそうだな」
マリーが笑いながら同意した。
「来年もこの時期に帰ってくるよ。また一緒にイブニングに行こう。」
マリーが大きく頷いた。
短い仮眠の後、マリーとリネットに見送られてムルパラを後にした。オークランドまでの車中、Ｍ氏は昨夜のイブニングでキャッチした６０センチ近いレインボートラウトの事を繰り返し語ってくれた。すべて自分一人で釣りを組み立て、大物を釣り上げたことがとても嬉しかったようだ。
帰国した翌日、僕はフライショップでストリーマーを何本か購入した。リトリーブの釣りを練習するつもりだ。来年、ロトルア湖のイブニングで素晴らしい魚をキャッチするために。
