この朝も少し雲が広がっていたが雨が降る気配はなかった。今年は天候に恵まれた釣行となった。
最終日の朝は少し雲が多かった車は一週間の釣行ですっかり泥まみれとなってしまった
この日はＲ川の下流をボートで下りながら釣りを楽しむことになった。僕の大好きなラフティングの釣りである。ほぼ毎年ラフティングは経験しているが、Ｒ川の下流を釣るのは初めてのことだった。マリーもこの区間を釣るのは今年はこの日が初めてだった。今回の釣行ではすべての場所でシーズン最初の釣りを楽しむことができた。このような幸運はまたとないことだろう。
マリーの家から４０分ほどのドライブでボートを降ろす地点に着いた。そこにはＤＩＤＹＭＯの繁殖拡大を呼びかける看板が立っていた。ボートを降ろすと、マリーは下流のボートを陸に揚げる地点に車を移動するために出発した。しばらくの間、ボートの傍で川を見ながら佇んでいた。
ボートを降ろした地点でマリーと二人で記念撮影この日は車の移動を手伝いに息子のロビンがついて来てくれた
入渓場所に立っていたＤｉｄｙｍｏ被害の拡大阻止を訴える看板今ニュージーランドの釣り場で一番深刻な問題だ
マリーが戻ってくるとすぐに釣りを開始した。この川は岸際の緩流帯やプールの流れ込みが好ポイントとなっている。ボートで下り始めるとすぐに良いポイントがあった。ボートから降りて岸際の緩流帯にフライをキャストするとすぐに反応があり、元気なレインボートラウトが次々と釣れた。
この区間は好ポイントが連続している竿を出せば必ず反応がある状態だった
ハイシーズンであれば、同じポイントを徹底的に狙うことは少ない。ポイントを荒らさないためと、次回ガイドする釣り人に魚を残しておきたいからだろう。しかし、この日は逆だった。何匹釣れても、マリーは次にキャストする場所を指示した。一つ一つのポイントのどの場所に魚が付いているのか細かく確認しているようだった。中には一つのポイントから１０匹以上反応がある場所もあった。
「どうだ、ここは魚のスーパーマーケットだろう」
キャストを繰り返す僕の背後からマリーが笑いながら声をかけてきた。
「たしかに、それもムルパラのスーパーマーケットじゃないね。ロトルアかオークランドの大きなスーパーマーケットだね」
二人で大笑いしながら釣りを続けた。
この日のタックル構成はちょっと変わっていた。僕のロッドの他に、マリーが６番１２ｆｔのダブルハンドロッドを持ち込んでいた。これにタイプⅣのラインを組み合わせ、ウェットフライの釣りを体験させてくれるというのだ。
下流側に良いポイントが展開している場所で、ウエットフライを試すことになった。マリーにウエットフライを持っているかと聞かれたので、フライボックスを渡した。マリーはそこにあったアレキサンダーなどの古典的なウェットフライには目もくれず、ロングシャンクフックに巻いた黒のＭＳＣを取り出して結び始めた。そのフライは普段芦ノ湖や丸沼でハーリングをする時に使っているものだった。
言われるままにフライを流れに対してクロスにキャストし、ロッドを先行させながらラインを張り気味にして下流方向にスイングさせ、ラインが流れに平行の位置に来た時点でゆっくりリトリーブした。
最初はこんな感じで釣れるのか半信半疑だったが、何投目かでリトリーブを始めた時、手元にあたりが伝わってきた。ラインハンドで合わせるのはバラマンディの釣りで慣れている。ロッドの長さとリーダーの太さを利用して半ば力任せに寄せた。最初の一匹は小ぶりなレインボートラウトだった。
一匹釣ると釣り方に自信が出てくる。ダブルハンドのキャストにはなかなか慣れなかったが、釣り方にはすぐ慣れた。ウエットフライでも良型の魚を次々とキャッチすることができた。
ダブルハンドロッドでウェットフライの釣りを初体験したニンフと異なり、下流側を狙えるので釣りのできるポイントが広がった
しばらく釣り下ると、流れ込んでいる支流の浅場にマリーが魚を見つけた。魚を驚かさないよう廻り込んで下流側にボートを停め、降りてそっと近づいてその魚を狙った。インジケータも通常は二つ付けているが、魚を驚かさないよう小型のものだけにした。キャスティングの正確性にだけ気を配れば、あとはとてもイージーだった。ファーストキャストで良型のブラウントラウトをキャッチすることができた。
サイトフィッシングでキャッチしたブラウントラウトこの日は様々なシチュエーションの釣りが楽しめた
その後もそれぞれの釣り方で釣れ続けた。何ヵ所もスーパーマーケットがあった。
この日は少し遅めの昼食となった。昼食にはサンドウィッチと昨日の寿司が両方用意してあった。今日はちゃんと持ってきたぞ。と、マリーが醤油の瓶を取り出した。
しかし、やはりマリーは釣りのガイドに関しては抜群に優秀だが、それ以外では時にドジな面もある。この日はお湯の入ったポットを持ってきていながら、インスタントコーヒーを忘れてきた。白湯を飲みながらサンドウィッチを頬張った。
この日はちゃんと醤油を持ってきただが、コーヒーは飲めなかった
午後も釣りは絶好調だった。良型のトラウトが立て続けに釣れた。瀬ではドライフライに出る魚もいた。１６時過ぎにこの日の釣りを終え、車を停めた地点まで漕ぎ下った。川から見る景色が美しかった。この日は少なく見積もっても４０匹以上の魚をＣ＆Ｒすることができた。
午後一番で釣れた良型のレインボートラウト
こちらは良型のブラウントラウト何匹釣ったかはもう分からない状況だ
釣りを終え、流れをゆっくりと下る初めての区間を釣るのはやはり楽しい
マリーの家に戻ると釣果を聞いてリネットが目を丸くした。
「他の釣り人は３匹釣れた５匹釣れたと言っているのに、あなたはどうしてそんなに何十匹も釣ってくるの？ 何が優れているの？」
僕は笑って答えた。
「優れているのはマリーのガイドさ。ぼくはただマリーの言うままにキャストしているだけさ。あとは、この季節のおかげと、ちょっとだけ運が良かったんだろうね」
そのやり取りを後ろで聞いていたマリーが口をはさんだ。
「リネット、そもそもこいつは釣り人じゃない。フィッシングマシーンだ。釣り始めると止まらなくなるんだ」
３人で爆笑した。
イブニングは初日に竿を出したマリーの家の裏にもう一度行こうと思っていた。マリーにその許可をもらおうとすると、どうせならボートを出すから少し上流の倒木まで行こうと提案してくれた。これは願ってもないことだった。今年はＲ川の水位が高く、倒木下のポイントまで川通しでいくことはできないからだ。
バギーにボートを乗せた台車を繋ぎ、牧場を抜けて川岸を目指した。薄暗くなる中、ボートを川に降ろして、二人で漕ぎポイントを目指した。ポイントに着くと既にライズが始まっていた。
イブニングはボートを出して倒木下のポイントに行くことになったこのバギーでボートを運ぶ
倒木下のポイントには今年もドラマが待っていたこのポイントの魚もフライを見るのは今シーズン初めてなのだろう。ライズしている場所をフライがナチュラルに流れれば素直に反応してくれた。暗くなってフライが見えなくなるまで釣り続け、９匹フッキングして８匹をキャッチした。いずれも４０センチオーバーの元気なレインボートラウトだった。
「４５分間で９匹かけて８匹キャッチか。本当にお前はたいしたもんだ」
「なにしろフィッシングマシーンだからね」
二人の笑い声がすっかり暗くなったＲ川に響いた。
このサイズを８匹キャッチこれ以上ない有終の美を飾れた
翌朝、２時にマリーの家を出発してオークランド空港まで車を走らせた。帰路も順調だった。６時前にオークランド空港に着いた。少し待って搭乗手続きを済ませ、空港のバーで軽い朝食を摂った。ラムミンチパイとスタインラガービール。ニュージーランド最後の食事に最適の組み合わせだ。素晴らしかった今回の釣行を振り返りながら、一人で祝杯をあげた。
ニュージーランドで味わう最後の食事素晴らしい時間が過ごせたことに乾杯！
