5日目
泣いても笑ってもバンクーバー島で釣りができるのはこの日だけだ。朝起きた時は何としてもキングサーモンを釣ってやるという思いに気持ちは固まっていた。
この日も5時半にロッジを出発した。昨日までは天気が良く出発時には満天の星空が見えていたが、この日はうっすらと霧が立ちこめていた。
釣り場に向かう途中で思わぬ幸運に恵まれた。林道を走っている際に車の前を大型の猫のような野生動物が横切ったのだ。運転していたケンジーがクーガー（ピューマ）だと興奮気味に言った。彼もこの林道を30年通っているが野生のクーガを見たのは初めてだという。お前らはとってもラッキーだと何回も口にした。
この日の釣り場も前日までと同じプールだった。釣り場に着くと対岸に何やら動く黒いものが見えた。ブラックベアだった。前日かなり下流の河原にいるブラックベアを目撃していたが、こんなに近い距離で見るのは初めてだった。熊はこちらを警戒しながらもサーモンが気になるようで、しばらく対岸を徘徊したあと森に消えていった。
釣り場の対岸にいたブラックベア
しばらく川岸を徘徊して森に帰っていったキングサーモンをキャッチするためにはとにかく1回でも多くキャストするしかない。そう思って誰よりも早く準備を整え、一番釣り易くて実績のある場所に陣取って釣り始めた。釣り方は昨日と同じルースニングにした。数多くフライを流せば必ずチャンスがあると信じてキャストとメンディングを集中して繰り返した。
釣り始めて1時間程して待望のアタリがあった。合わせると魚の重量感のある抵抗が伝わってきた。キングサーモンであってくれと願った。昨日の件もあるので、魚を完全にランディングするまでは安心できなかった。落ち着いてファイトした。しっかり時間をかけて魚を寄せ、最後はケンジーが巧みにネットインしてくれた。釣れたのは57㎝と小型ではあったが、まぎれもなくキングサーモンだった。喜びよりどちらかというと安堵感の方が大きかった。ガイド達も同行者もみな喜んでくれた。
ファイトの様子いつになく慎重になった
ケンジーがネットを持ってスタンバイしてくれている
キングサーモン最終日にようやく釣れてホッとした
小型だが面構えには風格を感じるこれで弾みがついてさらに釣れ続くかと期待したが、現実はそう甘くなかった。プールに入っているサーモンの数が昨日までより少なくなっていて状況は芳しくなかった。それでも対岸で釣っていたＫ氏は鼻の曲がった美しい魚体のレッドサーモンの雄を見事に釣りあげた。僕は集中力が薄らいでいたので午前中は同行者の釣りを見学したりしてのんびり過ごした。
Ｋ氏のファイトシーン
鼻曲がりの雄のレッドサーモン昼食後は再び釣りに集中した。釣り始めて少しするとインジケータに明確なアタリがでた。今までのアタリ方と違った。スレかと思いながらもしっかり合わせた。魚がかかった。引きの強さからそれほど大きい魚ではないと判断できた。ファイト中に見えた魚体の色から、かかった魚は小型のキングサーモンだと思った。ところがネットに収まった魚を見たケンジーが驚きながらブラウントラウトだと言った。
午後もルースニングで魚をかけた
ブラウントラウトこの川で初めて見たとケンジーが驚いていた
バンクーバー島にはブラウントラウトが生息している川が多くある。だが、この川にはブラウントラウトはいないはずだった。ケンジーが今まで30年間ガイドしていて、この川でブラウントラウトを見たのは初めてだと言った。初めてのことが多く起きる日だった。
その後も終了時刻まで釣り続けたがアタリが出ることはなかった。キングサーモンとブラウントラウトをキャッチできたことで満足だった。
釣りを終えてケンジーとロブと記念撮影タフだったが充実した4日間だった
ロッジに戻るとガイド達も交えて庭でビールを飲みながら釣り談議に花を咲かせた。その場でケンジーとロブに、この後スタージオンを釣りに行く話をすると、少し呆れられながらも頑張って大物を釣ってこいと励まされた。
ビールを飲みながら釣り談議に花を咲かせるこうした時間がとても楽しい
