nz2003-5

２００３年釣行記（５）

第５日目

　朝の空に少しずつ雲が増えていた。そろそろ天気の変わり目だろうか。
　この日はＹ氏と二人、マリーのガイドでＲ川をボートで下りながら釣りをする予定になっていた。ボートを使った釣りは楽しい。歩かなくて済むという安楽さも理由の一つだが、ボートでなければアプローチできないポイントを狙えることが最大の理由だ。
　朝食が終わると、マリーは車の後ろにボートの台車を連結し、林道の奥にあるボート発着場を目指した。Ｒ川には何ヶ所か車が水際まで入れる場所がある。そうしたところでボートの積み降ろしを行うのだ。
　台車からゴム製のボートを降ろし、オールを取り付けて荷物を積み込んだ。昼食は念のため防水バッグにしまった。ボートを川に浮かべ、早速乗り込んだ。すぐに下流に向かうかと思ったが、マリーはボートを少し上流に漕ぐと再び岸辺に係留した。ライズの増える時間帯にはまだ早いので少し時間をつぶそうという考えだ。３０分ほど岸辺で釣りをしてから下流に向けてボートを進めた。

　少し下ったところで、マリーが川岸の茂みにアンカーを投げ入れてボートを停めた。上流の岸際に緩流帯があり格好のポイントとなっていた。この川の魚は流れの速い場所より、流れの緩いところで良く釣れる。ここはまさにそういう場所だった。水底に何匹かの魚影が確認できた。
　ロイヤルウルフをインジケータ代わりとし、ドロッパーにフェザントテールを結んで釣る事にした。ポイントのほぼ中央にキャストした。すぐにドライフライが水中に引き込まれた。釣れたのは３０センチほどのレインボートラウトだった。このくらいのサイズでも、ボートの上から釣ると魚のファイトは申し分なかった。
「もう少し上に大きいのがいるぞ」
マリーの指示で少し上流へキャストした。またすぐにアタリがあった。今度釣れたのは良い型のブラウントラウトだった。このポイントでは小型のレインボートラウトがもう１匹釣れた。幸先の良いスタートとなった。

　川を下っていくと、マリーが岸際のバブルラインでライズを見つけた。良い型の魚のようだった。下流に回り込んでボートを停めた。流れはそう複雑ではなかったが、ライズしている地点の少し下に川岸からブラックベリーの蔓が垂れ下がっていた。これが厄介だった。Ｙ氏が挑戦したが、この蔓にフライをかけてしまった。無理に外そうとすると魚を驚かせてしまう可能性が高かった。そこで、Ｙ氏には申し訳なかったが、Ｙ氏のロッドはそのままにして、僕がライズを狙うことになった。補食対象はレースウイングのようだが、結んであるロイヤルウルフをそのまま投げてみた。フライがライズ地点を通過したとき、魚の黒い頭が水面を割って現れた。ライズの主はおおらかだった。魚は流れに乗って少し下ったが、なんとか寄せることができた。完璧な魚体のレインボートラウトだった。

　川岸から灌木が大きく張り出し、下流部がポケット状にポッカリと空いている所があった。マリーが灌木の上流でボートを停め、そっと下流のポケットを覗き込んだ。そしていつものように手招きをした。
「静かに覗け。でかい魚がいるぞ」
大きな魚が底近くにゆったりと定位していた。距離が近すぎてラインが出せない。リーダーキャストでレースウイングを水面に浮かべた。魚は水面に興味がないのか、全く反応を示さなかった。何回もキャストすると魚を驚かせてしまう。躊躇わずにドロッパーにニンフを結んだ。ニンフを魚の鼻先に落とした。すぐに魚が反応した。ドライフライが水中に引き込まれた。灌木の下に潜り込まれないことだけを意識してファイトした。この魚も良いコンディションのレインボートラウトだった。
　まだ昼前だった。午前中だけで良型が３匹も釣れ、とても気分が良かった。昼食はボートの上で食べた。

　この辺りのＲ川は蛇行を繰り返している。至る所に屈曲点があり、そのワンドが好ポイントとなっていた。午後最初の魚をかけたのもこうしたポイントだった。魚を見つけてその鼻先にニンフを落とす。この日一番確実なパターンでキャッチした。この日釣れる魚は５０センチを越える素晴らしい魚体の魚ばかりだった。
　さらに下ると、川は林を抜けて牧場の中に入っていった。時折、小雨が降るようになった。それでも釣りの方は相変わらず好調だった。小さな用水路が流れ込んでいる地点で見つけた魚も、ドロッパーのニンフで釣り上げた。この魚は５５センチを越えていた。

　ボートを陸に揚げる地点まで下ってきたが、迎えの車が来るまでには、まだ少し時間があった。そこで、ボートを置いて近くを歩いて釣ることにした。この辺りは２日目にピーターと釣ったところだった。対岸の灌木の際でライズがあったのを覚えていた。少し重たい流れを慎重に対岸へ渡った。
　灌木の際を狙ってドロッパーを結んだロイヤルウルフをキャストした。すぐにロイヤルウルフが水中に没した。ロッドを立てるのと同時にラインが引き出された。川の中央で大きな魚体がジャンプした。とてもパワフルな魚だった。しかし、この魚はランディング寸前で水中の障害物にラインをとられブレイクしてしまった。
　最後の魚をキャッチし損ねたままでこの日の釣りを終えたくなかった。まだ少し時間があったので次の魚を狙うことにした。上流の灌木の際にライズを見つけた。向かい風が強くなってきたので、できるだけポイントに近づき、ライズ地点の１ｍほど上流にフライを落とした。ドラグフリーで流れたフライに魚はすぐに反応した。この魚も力強かった。さきほどと同じミスはしたくなかった。マリーの指示で対岸に渡ってランディングすることにした。対岸は障害物が少なくて安全だった。ドラグを締めて魚をコントロールし、再び慎重に川を渡った。ゆっくりと時間をかけてファイトを楽しみ、最後は魚を浅場に追い込んでランディングした。
　結局、この日は５０センチオーバーを６匹キャッチすることができた。疲れが心地よかった。マリーの家に着く頃には雨が本降りとなってきた。